CATNAP STATION🐾夢を使った次元旅行🐈

愛知県でQHHTというヒプノセラピーを行っています😺どうぞよろしくお願いいたします🐾

馬と赤い紙

馬と赤い紙

気が付くと祖父の部屋にいた。
正確には祖父の部屋に似た場所にいた。実際の祖父は20年以上前に他界しているので、現実的にそんなことはあり得ないのだけど・・・。


夢の中では、祖父の部屋と同じ匂い、同じひんやりとした湿度、暗さ、静けさ、子供のころになじんだ雰囲気がする。木目の天井、壁は漆喰なのでざらざらしているが必要以上に湿度が上がらない。足元は古い畳、使い込まれているけど生活の匂いというか、人の気配がある。



漆喰の波のような模様を見ていると、だんだん壁が迫ってくるような錯覚に陥る。まるで壁が呼吸をしているみたいに感じてくる。私は呼吸する漆喰の壁に寄り添って呼吸を合わせていた。
祖父の部屋は、まるで何かの大きな生き物の胃袋の中みたいだった。
この静かで少しひんやりとした部屋にいると、不思議と気持ちが落ち着いてくる。

最初はぼんやりと白いカーテンがかけられていたけれど、だんだん細部が鮮明になっていった。
机の上には今にも走り出しそうな木彫りの馬、ブロンズの馬もいる。机の隣には大切な書類を保管する書類棚があり、さらにその横の本棚には乗馬の雑誌、満州の写真集、大相撲の雑誌など生前の祖父が大切にしていたものがたくさん並んでいた。


本棚の下の方に目線を伸ばすと、部屋の隅には小学校低学年くらいの子供がうずくまっている。
些細なことで父親と祖母にお説教され、さっきまで泣いていたようだ。
その子は、祖父の部屋を避難場所にしていた。両親や祖母にお説教されるたびに、この部屋へ逃げ込んでいつも彼女の味方をしてくれる祖父の帰りを待っていた。
この日の祖父は病院のお手伝いに出かけていたようなので、帰りが遅いらしい。

その子は祖父の帰りを待つ間、いつものように祖父の本棚にある雑誌を眺めていた。
乗馬の雑誌を手に取り、中をパラパラと眺めていく。たくさんのサラブレッドたちの写真、海や山で馬を走らせる写真、大人向けの内容なので小学生の彼女にはあまり興味がわかないようだった。


人馬一体の達人
このころ、近所に乗馬クラブがあった。もともと馬術の専門家だった祖父はその子を連れて乗馬クラブへ出かけていくことが多かった。
祖父が乗馬クラブへ行くと、10頭くらいいた馬たちが一斉に祖父の方を向いて、鳴いたり、足を鳴らして祖父に挨拶をしていた。
その子は自分より大きな馬たちが怖かった。祖父の後ろに隠れて「早く家に帰りたい」と訴えていた。
祖父が「一緒に馬に乗ろう」と誘ってくれても「怖いからいやだ」と毎回半べそで即答していた。
祖父は一人で馬に乗って、コースを回っていた。長身の祖父は背筋がピンと伸びていた、とても美しく馬を乗りこなす人だった。美しいだけでなくとも楽しそうで、馬への思いが見ているこちらにも伝わってくる。彼は「優しさ」という言葉を使って馬と心を通わせていた。

馬も祖父もとても楽しそう、特に馬たちは祖父のことが好きだったらしく、祖父の合図に機敏に行動して、リズミカルに走ったり飛んだり、呼吸がぴったりだった。
馬の動きを邪魔しない祖父の乗馬は今でも目に焼き付いている美しい景色の一つだった。

 

 

 

The Book of Sacrifice and Soul Pain.

乗馬の雑誌に一通り目を通し、雑誌をもとの場所へ戻した時、一冊の薄い冊子が目についた。

その薄い本は白い表紙なのだけど、だいぶ古いものらしく日焼けしてベージュから茶色っぽくなっていた。冊子タイトルは漢字なのでその子には意味が分からなかった。
冊子を開くと中国〜日本の地図が載っている。
どうやらこれは祖父が所属していた騎兵連隊の帰還兵の手記が載せられているらしい。
○○隊の△△作戦とか、犠牲者や戦死者の名簿も載せてあるようだ。
運よく日本へ帰還することができた人たちは、犠牲になった上官や仲間たち、その家族たち、馬たちのことを思い冊子を作り、お互いに連絡を取り合っていたらしい。

彼女は難しい漢字や文字ばかりの冊子を眺め、祖父は過去に尋常ではない出来事に巻き込まれ大変な思い、大変な悲しみを背負わされたのをなんとなく感じた。

銃声、砲撃の音、火薬のにおい、怒号、鳴き声、あちこちから上がる火の手、おびただしく流れる血と匂い。
折り重なっている動かない人らしい影。自分はけがをしているのか、無事なのか、生きているのか死んでいるのか?感情も感覚も麻痺してよくわからない。自分の名前も、どうしてここにいるのか?なぜ戦っているのか思い出せない・・・。

祖父だけでなく、その冊子に寄稿した人たちそれぞれが多くの犠牲をはらい、非情になりながら死線を乗り越えてきた。中には帰ることができなかった仲間がいる。




上官や部下・仲間たちへの贖罪の思いを書き綴るものもいれば、日本へ帰ってきたことを感謝するひと、同じ悲しみを繰り返さないように訴える人、それぞれの切実な思いがこの冊子に寄せられていた。

彼女も幼いながら、たくさんの大人たちが何年も危機的な環境に身を置いてやっと安住の地を見つけたこと。こういう人たちが身を挺して平和な時代の礎を築いてくれたことをなんとなく感じたようだった。

この本にはたくさんの人の悲しみ、そして平和への願いが込められている。と彼女は感じていたようだ。

 

 

赤い紙
冊子の最後のページには赤い紙が貼付されていた。
その赤は薄暗い赤色で、朱里色のような明るさがない。
血の色を思わせる黒みがかった赤色で、何とも重く陰惨な色だった。そこには大きな黒い文字で「召集令状」と書かれていた。
単なる紙切れなのにやたらとまがまがしく、有無を言わせないような圧力、そして暴力に駆り立てるような狂気の振動を発していた。
紙を見ていると心臓がどきどきして嫌な緊張感が止まらない。胃や腸のあたり、下腹部からむかむかしたものがこみ上げてくる。


「何だろう、この暴力的な赤黒いどろどろしたものは?」
赤い紙を見ていると体中の血液が抜き取られるような気がした。
赤い紙は吸血ヒルみたいにその子の体中の血を吸い込んで、ブクブクと膨張していった。
赤黒いヒルはどんどん大きくなって、彼女の家はおろか近所や町全体、日本中を覆いつくして、たくさんの人たちの血液を吸い込んでいく。血を吸えば吸うほどヒルは大きくなっていく。
そして、ついに世界中を争いと暴力と狂気で満ちた混沌の世界へ吸い込んでいく。
その子は気分が悪くなり、その冊子を閉じて元の場所へ戻した。

気が付くと部屋は真っ暗になっていた。
そしてもう一度気が付くとそこは祖父の部屋ではなく自室のソファだった。祖父の気配は消えてなくなり、小さな子はもういない。
窓からは午後の穏やかな光が差し込んでいる。